語義

シュティリアルテは、オーストリアのシュタイアマルク州の州都グラーツを中心に開催される夏の音楽祭で、「styriarte」は、シュタイアマルクを表すラテン語の「styria」と、芸術を意味するイタリア語「arte」を組み合わせた造語です。

2012-家族の人間模様

私たちは自ら自分の家族を選ぶことができません。結局のところ定められた自分の家族の中に生まれるのですから。今では離婚した者同士が子連れで結婚し家庭を作ることが可能になったわけですが、これとは関係なく、重要な点は、人がいかに自分の家族と関わっているかということであります。独立し、自分だけで自らの人生を切り開く事を好む人がいる一方で、血縁関係にある人たちにせよ、血縁関係がなく自ら選んだ人たちであるにせよ、親しい家族と共に生きることで快適に感じる人も存在するものです。今回のシュティリアルテのプログラムはこの「家族の人間模様」に焦点を当てて開催されます。芸術家にとっても、家族は単に自分が生まれ落ちた社会単位以上のことを意味するものです。家族なくしては、今日私たちが知っている音楽家の天賦の才は開花しなかったでしょう。また天才音楽家の才能は家族の背景を考慮せずには理解できないことが多いものです。このことは、例えばヨハン・セバスチャン・バッハにも当てはまります。彼は古くからの音楽一家に生まれ、大バッハ存命中には、しばしば彼の子供達は大バッハ本人よりも有名になったといいます。しかしながらこの状況が家族の平和を乱したことはありませんでした。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの場合、父親レオポルドは、軍隊的ともいえるほど厳格に息子の音楽的キャリアを作り上げようと意図し、家族から離れようとするモーツァルトの試みを許そうとはしませんでした。ヨハン・シュトラウスに至っては、彼の家族生活は調和からはほど遠く、死闘といってよいほどの激しい競争に満ちていました。今回のシュティリアルテのプログラムを通じて、多数の偉大な作曲たちの家族との生活をこっそりと観察してみようではありませんか。このことを通じて、生活の最もプライベートな側面が芸術作品へと昇華していく様子がわかることでしょう。家族の互いのメンバーとの絆が不可分であることがわかり、家族の中に人生の嵐から逃れることのできる安全な避難所を見つけることができると確信できる時、それは家族の構成員にとって、真の喜びとなります。芸術の世界において、人生の嵐は特に激しいものだからです。これに対して、最も貴重な家族が離散したり、かつては援助と確信が得られた安息の地が徐々に監獄へと変わっていくとき、家族の中に生きる人は特に悲惨な結末に遭遇します。作曲家たちは、このような感情をすべて体験するだけでなく、このような体験そのものについて語り、その体験に音楽を付加し、家族の中の愛と苦難について語ります。そしてさらには、聖家族についてもプライベートな側面があることがわかります。カトリックの伝統によれば、聖母マリアは自らの子の死に遭遇した際、プライベートな悲しみを体験します。しかし、イエスはその死後も常に救世主でありキリストとして存在し続けるのに対して、マリアは常に私的な、家族に束縛された一人の母親として存在するのであります。このことがあるからこそ、イエス・キリストの受難に際して、我々はマリアと同じように完全に普通の人間としての苦しみを感じ、理解できるといえます。アントニン・ドボルザークはこのようなマリアの苦しみの感情を共有しつつ、自らの3人の息子たちがこの世を去った後の1877年に「悲しみの聖母(Stabat mater)」を作曲しています。ニコラウス・アーノンクールはこの大作を2012年のシュティリアルテの中核となるテーマ作品に選定しました。家族の絆を描くこの物語は、単に人間的としての哀悼と悲嘆に対する共感を表すだけではなく、さらにこの作品を聴こうとする人すべてに癒しと希望を与えてくれます。

その歴史

1985年に創立されたシュティリアルテ音楽祭(以下、シュティリアルテ)は、ヨハン・セバスティアン・バッハをフィーチャーして開催され、その後モンテ ヴェルディ、ハイドン、シューベルト、モーツァルト、ベートーヴェン、メンデルスゾーンといった個々の作曲家に焦点を当てて開催されてきました。1992 年からは「夏の夜の夢」、「空間と響き」、「断片とつながり」、「神話の足跡」、「とにかくクラシックに!」といったテーマをを探求してきました。そして 1998/9年には「失楽園?」「教えておくれ、愛よ」のテーマで、壮大なシリーズが新たに始められ、2003年のテーマ「音楽の力」とともに締めくくら れました。その後さらに、テーマとして社会の根源的説明モデルを問いかけることを始め、2004年の「時から時へ」、「官能」(2005年)、「ようやく 幸せに」(2006年)へと続きます。その後「ヨーロッパ」(2007年)、「水に」(2008年)、「人間の尊厳」(2009年)のテーマで開催されま した。また、2010年は「祖国」をテーマとし、とりわけオーストリア人にとっての祖国に焦点を当てて音楽祭が開催されています。2011年には、音楽に おける「易しいことは難しい」というテーマを取り上げました。今年2012年にはシュティリアルテは「家族の人間模様」の解明を試みます。

Nikolaus Harnoncourt

背景

シュティリアルテは、当初は先駆的指揮者ニコラウス・アーノンクールと彼の故郷であるグラーツとを密接に結び付けるために創設されました。アーノンクールの卓越した芸術観こそが彼自身を世界的なスターに作り上げたといえますが、シュティリアルテにおけるコンサートやイベントもアーノンクールの芸術観に則って企画されています。今日のシュティリアルテは私たちに受け継がれていながらも長きにわたり忘れ去られていた多様な音楽遺産の再発見を可能にしてくれ、また古楽、あるいは中世からロマン派時代に至る音楽作品への多彩かつ刺激的なアプローチを反映しています。

演奏家たち

ニコラウス・アーノンクールに導かれた独創的な古楽演奏アンサンブルであるコンツェントゥス・ムジクス・ウィーンと並び、非常にダイナミックな演奏をすることで知られるヨーロッパ室内管弦楽団がシュティリアルテの主要なアンサンブル団体となっています。また、ジョルディ・サヴァール、モザイク・カルテット、アルモニコ・トリブート・アウストリア、イル・ジャルディーノ・アルモニコなど、当代一流の古楽演奏家たちも常連の演奏家です。

開催地

シュティリアルテの素晴らしい点として、コンサートが開催される環境の魅惑的な雰囲気が挙げられるでしょう。シュタイアマルク州の州都グラーツの旧市街は世界遺産に登録されており、きわめて良好な保存状態を誇る町の随所に見られる歴史的に有名な建造物は、音楽祭とともに忘れがたい思い出として残ることでしょう。

*シュティリアルテのプロモーションビデオへ

 

いくつかの公演については日本語での曲目解説をご覧いただけます。

愛すべき家族
バッハ商店
ドボルザーク:スターバト・マーテル(悲しみの聖母)

 

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